性器ヘルペスのための治療の選択肢
はじめに
性器ヘルペスの頻繁な再発や、重い症状は、あなたの仕事や社会活動を妨げ、あなたの性生活を混乱させることがあります。性器ヘルペスをもつ人々の中には、再発の頻度や重症度に影響を及ぼすと思われる要因がわかっている人もいます。あなたの生活の中でヘルペスを管理する方法を考える時に、ストレス、食事、ライフスタイルといった要素について検討することは有益であると思われます。それぞれの症状は個人的であり、ある人に効果のあることが別の人には効果がないことがあります。以下の情報は、再発性器ヘルペスの管理における経口抗ウイルス薬の使用についてのものです。
主治医の処方の下で現在、3種類の抗ウイルス薬が利用できます。これらの抗ウイルス薬は性器ヘルペスの発症を治療し、予防することも可能です。これらの抗ウイルス薬はあなたに症状が現れたその度ごとに服用することができます。この治療法はエピソード療法と呼ばれています。あるいは、症状を抑制または予防するために長期間にわたり毎日服用することもあります。このリーフレットは、ヘルペスの治療に用いる薬剤とそれらがどのように働くかについての情報を提供しています。−日本では現在のところ、性器ヘルペスの治療については、アシクロビルを使用したエピソード療法にのみ健康保険が使用できます。−
私の性器ヘルペスが再発するのはなぜですか?
ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(HSV)1型または2型によって引き起こされる、一般的な感染症です。性器ヘルペスは性器のあらゆる部分と、肛門、お尻、太ももといった性器周辺の領域を冒します。 あなたがいったんHSVに感染すると、HSVはあなたの体の中、脊髄の近くの神経組織の後根神経節という場所に永久的にとどまります。大体の場合、ウイルスは不活性ですが、時おりこのウイルスを再活性化する何かが起こります。ヘルペスの症状の出現(再発)は、ウイルスが増殖(複製)し新しいウイルスが生産され、神経を伝わって最初に感染した部位に戻った時に起こります。これは、あなたに自覚できる症状を引き起こします。時々、ウイルスが複製され、自覚症状を伴わずに感染部位から放出されることがあり、これは無症候性ウイルス排泄と呼ばれます。 なぜHSVが特定の時に再活性化されるのかは不明です。しかし、あなたは症状が現れる時の引き金となる要因を特定することができるでしょう。これらには、セックスによる擦り傷、体調不良、ストレス、疲労、抑うつ、睡眠不足、直射日光、月経などがあります。引き金となる要素は人により異なります。もしもあなたの症状を引き起こす要因がよくわからなければ、日記をつけることが引き金を特定するのに役立つでしょう。日記をつけることは、あなたのヘルペス再発の重症度と頻度を評価することにも役立ちます。日記は、あなたと主治医がどのような治療法がベストであるかを決定する手助けにもなります。再発した時には、どのような症状が起こったか、発症前にあなたが何をしたか、発症中はどのような感じだったか、症状はどのぐらい長く続いたか、について記録しましょう。再発の頻度および/または重症度が年々低くなっていくことに気付くことがあるかもしれません。この低下の理由は不明ですが、あなたのライフスタイル、あなたの免疫系、ウイルスそれ自体の変化、また引き金となる特定の要素を避けようとするあなたの能力が向上したことなどが含まれると思われます。
情報やカウンセリングはヘルペスの再発とうまくつきあっていくための手助けとなるでしょう。支援グループと連絡を取り合っている人々の多くは、これが自分の生活において性器ヘルペスとつきあっていく上でのターニングポイントとなったと話しています。
あなたの再発が頻繁で、痛みを伴ったりあなたの生活の大部分を混乱させたりするのであれば、経口抗ウイルス薬投与は症状を大いに軽減または抑制することができます。ウイルスに対してあなたの生活を抑える必要はないのです。
エピソード療法と発症抑制療法
エピソード療法
再発の最初の徴候が出た時に開始しその後数日間続ける治療法をエピソード療法と呼びます。エピソード療法は、症状が現れたらできるだけ早く行うことが最も効果的です。だから、あなたが再発の早期の徴候(たとえば皮膚のひりひり感や痛み)を特定できれば、この治療法は有用です。
エピソード療法は、症状を緩和し、症状が出ている期間を短縮するのに役立ちますが、再発の頻度には効果はありません。
発症抑制療法
発症抑制療法とは、長期間、たとえば数ヵ月にわたり、抗ウイルス薬を毎日服用する治療法です。このように抗ウイルス薬を服用すると、ウイルスはその複製を停止します。発症抑制療法は、以下のことを可能にします。
−再発の頻度を低下させるか、再発を完全に予防する
−無症候性ウイルス排泄の頻度を低下させる
もしもあなたが症状の出現を手に負えないと感じるならば、あるいは性器ヘルペスの再発と付き合っていくことが精神的に難しいと感じているならば、あなたは主治医に相談して、発症抑制療法の適用について話し合ったほうが良いでしょう。
−日本では、発症抑制療法に対しては健康保険が使えません。−
発症抑制療法は私に適しているでしょうか?
発症抑制療法の適用の仕方は人によりさまざまでしょうし、この選択肢があなたに適しているかどうか主治医と話し合うことは有用なことです。以下のような場合、主治医は発症抑制抗ウイルス療法があなたに適していると判断するでしょう。
−あなたの再発の頻度が手に負えないほど高い場合
−再発の症状が特に重症であるか、長く持続する場合
−性器ヘルペスの再発によって、抑うつ、不安、内気になったり、感情的な動揺があなたの社会活動および/または性生活を混乱させている場合。このような感情が再発を引き起こすことがあり、その結果悪循環となります。おそらく数ヵ月にわたり発症抑制療法を受けることにより、この悪循環を断ち切ることができ、この感染症を管理できたという感覚を得ることが出来るでしょう。
−再発した症状が出ている時にひどい痛み(神経痛)がある場合
−特定の状況、たとえば、試験前であるとか休日に出かけるとか、あるいは再発によってハネムーンのような特別な予定が台無しになることを避けたいとかいった時に症状が出る傾向がある場合
−新しい関係を始めつつある時に再発している場合−発症抑制療法は自信というクッションを与えることができます。
−ストレスが再発の引き金を引くことがわかっている場合で、これからストレスを受ける時期に入る場合(たとえば新しい仕事を始めるとか最近家族の死を経験したとか)
−ヘルペスの再発の引き金となるような別の病気になっている場合−その病気が回復するまで1クールの発症抑制療法を行うことが適切でしょう。治療はどのぐらいの期間受ける必要がありますか?
もしもあなたと主治医が発症抑制療法を行う決定を下したら、あなたと彼/彼女は、再検査までどのぐらいの期間発症抑制療法を行うかについても同意しておく必要があるでしょう。6〜12ヵ月後にこの感染症を管理できるようになることが期待できます。もしもそれぐらい経っても再発の問題を抱えているならば、あなたと主治医は発症抑制療法の継続を決定するでしょう。発症抑制療法は性器ヘルペスとの共存をもっと楽にしてくれるでしょうか?
多くの人々は、ヘルペスを管理できるということが、自分達の幸福や自信といった感情をより強くしてくれることがわかります。たった数ヵ月服用するだけで、発症抑制療法は性器ヘルペスの再発によって引き起こされる抑うつや不安の期間に入るあなたを助けることができます。
もしもあなたがヘルペスと上手く付き合うことが困難であれば、あなたの主治医またはカウンセラーによる専門的なサポートを求めることが大切です。あなたの地域の患者支援グループに参加するのも良いでしょう。支援グループに連絡した人々の多くが、非常に助けられたと言っています。また、親しい友達やパートナーも、重要なサポートの担い手であり続けることができ、性器ヘルペスにより引き起こされる不安や抑うつからあなたを助けることができます。
発症抑制療法は私のヘルペスが誰かにうつるのを予防できますか?
発症抑制療法が再発の最中あるいは再発の間のウイルス排出の可能性を軽減することは知られていますが、発症抑制療法がHSV感染症からあなたの性的パートナーを守ってくれるかどうかは不明です。この問題の研究は現在進行中ですが、その結果がわかるまでは、感染のリスクを最小限に抑えるその他の方法を続けることがベストです(「性器ヘルペス:その事実」の「ヘルペスの感染」のセクションを参照)。このことについてパートナーと話し合うことをお勧めします。あなたのパートナーは、ヘルペスを引き起こすウイルスのどちらかの型の免疫を持っているかどうかの検査を受けるのが良いでしょう。これはあなたがパートナーを保護する為にどのような方法を取るべきか決めるのに役立ちます。コンドームが性器ヘルペス感染からパートナーを保護することは証明されていませんが、非常に役立つので使用をお勧めします。性器ヘルペスの症状が出ている時が、感染のリスクが最も高い時です。このような時には性的接触を避けるのが最も得策でしょう。
抗ウイルス薬はどのように有効なのですか?
アシクロビル
アシクロビルは最初に使用できるようになった有効な抗ウイルス薬です。現在も使用されていますが、バラシクロビルやファムシクロビルのような新しいものよりも使い勝手が劣る抗ウイルス薬です。アシクロビルをエピソード療法として服用すると、性器ヘルペスの重症度が軽減され(治癒までの時間を短縮し痛みを軽減)、発症している期間を短縮します。さらに、アシクロビルはヘルペスウイルスが性器の病変部から検出されている(ウイルス排泄)期間を短縮します。この期間とは、この病気が性的パートナーにうつる可能性がある期間です。(1) アシクロビルは発症抑制療法にも用いることができ、再発の頻度を軽減する助けになります。臨床試験では、1年当たりの再発回数を11.4回から1.8回まで低下させることが証明されています。(2)−日本では、発症抑制療法に対しては健康保険が使えません。−
バラシクロビル
エピソード療法として使用した場合、バラシクロビルは、発症中のびらんの治癒を早め、痛みのある期間を短縮します。またバラシクロビルも、ウイルスが病変部から検出される期間を短縮します。(3) もしもあなたがヘルペス再発の最初の徴候−ひりひり感、むずがゆさ、発赤など−に気がついてすぐにバラシクロビルを服用したら、痛みを伴う水ぶくれの発症を完全に防ぐことができるでしょう。臨床試験において、最初の症状の発現に気付いてから24時間以内にバラシクロビルを服用した場合、プラセボ(偽薬)を服用した場合と比較して、痛みをともなう水疱と潰瘍の発症を予防した割合が約30%高かったことが判明しています。(3) バラシクロビルを発症抑制療法に用いる場合、臨床試験においてバラシクロビルがヘルペスの再発の85%までを予防するまたは遅延させることが証明されています。そしてバラシクロビルは偽薬に比べ、7〜8倍多くの患者において再発を抑えました。(4,5)−日本では、現在のところバラシクロビルを使用した性器ヘルペスの治療については健康保険が使えません。−
ファムシクロビル
ファムシクロビルをエピソード療法に用いると、症状の持続時間を短縮することが示されています。再発に伴う痛みのひどさも軽減されます。バラシクロビルやアシクロビルと同様に、ファムシクロビルも、ウイルスが性器の表面から検出される期間を短縮します。(6) 臨床試験の結果では、偽薬と比べてファムシクロビルのほうが、2〜3倍多く患者の再発を抑えました。(7,8)−日本では、ファムシクロビルは現在使用できません。−
あなたに特有の状況に応じた抗ウイルス療法に関するもっと詳しい情報については、主治医に相談しなければなりません。
抗ウイルス薬はどのぐらい安全ですか?
抗ウイルス薬による治療を受けた大部分の人々は、薬に十分な認容性を示しました。エピソード療法または発症抑制療法としてこれらの薬物療法を受けたうち少数の人々が、頭痛、吐き気、下痢などの軽い副作用を報告しています。これらの治療法に関連する重大な副作用は知られていませんし、他の医薬品との相互作用も実質的にはありません。しかし、もしもあなたに問題があれば、すぐに主治医に報告してください。
多くの医薬品と同様に、性器ヘルペスに対する抗ウイルス薬による治療は妊娠中には一般に勧められません。妊娠中に性器ヘルペスに初めて感染した女性に、抗ウイルス薬の使用を示唆する医師もいるでしょう。あなたに特有の状況について主治医と相談することが非常に重要です。妊娠中の性器ヘルペスに関するもっと詳しい情報については、「単純ヘルペスウイルスと妊娠」を参照してください。
抗ウイルス薬はどのぐらいの頻度で服用しなければなりませんか?
エピソード療法
アシクロビルは1日5回5日間服用します。(9,10)エピソード療法として用いる場合、バラシクロビルとファムシクロビルは1日2回5日間服用します。(9-12)発症抑制療法
発症抑制療法としてアシクロビルを用いる場合、アシクロビルの錠剤を1日2〜5回服用する必要があるでしょう。バラシクロビルならば1日1回しか服用する必要がありません。症状の出現が非常に頻繁であるならば1日2回である場合もあります。(11,12)ファムシクロビルは毎日2回ずつ服用します。(13, 14)−日本では現在のところ、性器ヘルペスの治療については、アシクロビルを使用したエピソード療法にのみ健康保険が使用できます。また、ファムシクロビルは販売されていないため、使用できません。−
そのほかに性器ヘルペスに有効な治療法は何かありますか?
数多くのワクチンが、ヘルペスの治療のために現在研究中です。しかし、それらがどのようにうまくはたらくかを私達が知るまでには数年かかるでしょう。
出典